溶けろよ、心

「おい!大丈夫か!」


ぼんやりしていたところに突然飛び込んできた男の人の声。


彼は私の目の前でしゃがんだ。

涙で乱れた視界には、その人の足元しか映らない。



「おい橘、すげえ汗だぞ。大丈夫か?」


彼が、壁についた私の手をとる。

自らの体を支えられるものがその人の体しかなくなって、しがみつく。


肌と肌が触れ合って、温もりが伝わってくる。
涙が頬を伝って、膝の上に落ちた。


「もう、嫌なの……」


その人は、私の背中をゆっくりと手を当てた。

背中は汗で濡れていて、綺麗ではないのに、気にもせずに撫でてくれた。

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