溶けろよ、心

「…寂しかったよ、俺だって話したかったのに」


甘い声が、耳をくすぐる。

かわいいなあって、安心する。

「うん。私もだよ」


私がそう言うと、町田くんは沈黙した。
歩いていた私は、その場に立ち止まった。

「もしもし?どうしたの?」



町田くんが、すうっと息を吸ったのが聞こえた。

「……橘さ、金曜日に言ったこと、覚えてる?」


うん。覚えてるよ。

「ううん。覚えてないよ」


「ああ、そうなんだ」





嘘。「晴斗」って、言ってしまったこと、ちゃんと覚えてる。

「好き」って言ってしまったことも。


急に、口をついて出た言葉。
なんで町田くんの前で言ってしまったんだろう。

あとから思い出して、ひどく後悔した。

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