溶けろよ、心
目を瞑って手を合わせる。
*
制服屋の帰り道、晴斗のお父さんは言った。
『真由ちゃん。晴斗のこと、これからもよろしくね』
性格も顔も晴斗はお父さんにそっくりで。
人懐っこいけれど照れ屋な晴斗のお父さんが、そんなことを言うなんて意外だった。
『余計なこと言うなって、父さん』
私の隣を歩いていた晴斗が口を挟む。
『ああ?なんだ、俺が真由ちゃんと喋ってたから嫉妬か』
晴斗に肩を組んで、晴斗のお父さんはニヤニヤと笑って言った。
その手を引き剥がそうとしながら、晴斗が言い返す。
『だからうるせえって!』
それにまた晴斗のお父さんは言い返す。
『うるせえとはなんだ、うるせえとは!』
すると、晴斗のお母さんが私たち家族に言うんだ。
『ごめんなさいね、騒がしくて』
お父さんと晴斗が愛のある喧嘩を繰り広げ、お母さんはそれを見守る。
きっとこれが、志賀家の日常だったのだろう。
それが一瞬にして崩れ去ったのが、あの事故の日だった。