溶けろよ、心
お通夜の日の晴斗を、忘れることなんてできない。
涙を流し続けるお母さんの隣で、晴斗は静かに、項垂れていた。
どこも見ていないような、虚ろな目。生気を失った顔。
嗅ぎなれないお線香の香りに、胸が苦しくなる。
遺族に挨拶するとき、私は晴斗の顔を見られなかった。
お母さんが、晴斗のお母さんに何か声をかけていたけれど、私は何と声をかけるのが正解なのか、全くわからなかった。
晴斗の手元だけを見ていた。
行き場がなく、さまよっているように見えたから。
私は、晴斗の右手を握った。
幼なじみの私には、そうすることしか出来なかった。