溶けろよ、心
チャイムが鳴った。
授業の時だけかけるメガネを外して机に置く。首を少し回すとポキポキ音がした。

読みかけの小説を読もうと取り出す。本を読むのは好きだ。自分をこの世界から助け出してくれるみたいで。

「すいません」

どこからか聞こえた、誰かに呼びかける声に顔を上げる。
隣のクラスの男の子。どうやら私に話しかけているらしい。

「志賀いるかな?」

町田隼人(まちだはやと)くん。
明るくて、うちのクラスにも友達が多いみたいで、よく見かけるから知っていた。いつも笑ってて、笑顔が可愛いなあって思ってた。羨ましいなあとも。

「えっと…」

町田くんの怪訝そうな顔が目に移った。しまった。見つめすぎた?

「今日、志賀くん、休み…」

目を逸らして言った。初めて話す人はやっぱり苦手だ。
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