溶けろよ、心
「……もういい。お前が話さないなら、俺が全部話す。じゃあな」
俺はそう言って、電話を一方的に切った。
もう一度かかってくるかと思っていたけれど、その気配はない。
ベッドに倒れ込む。
「あー……くそ……」
俺の知らない橘を知っている志賀が、ずっと羨ましかった。
志賀が初めて橘の話をした日、俺は橘に恋をしたけれど、同時に失恋したとも感じていた。
志賀に適うわけないからだ。
だから今、こうして燻っている2人が焦れったくてしょうがない。
俺が全部、橘に話す。
志賀の秘密も、俺の秘密も。
決心したのに、橘へメールを打つ手が震えた。
本当は怖い。
俺の秘密を聞いたら、橘はどう思う?
せっかく築けたここまでの関係……。
ああ、そうか。
想う年月に違いはあれど、志賀も橘もこういう気持ちで。
だからお互いに告白できなかったんだろうな。
2人を思うと、どうしようもなく切なくなった。
メールは、明日にしよう。
俺は目を閉じて、眠った。