溶けろよ、心
町田くんは私の方を横目に見て、口をきゅっと結んだままにやけている。
「嬉しい」
町田くんの素直さには適わない。
私も素直に「嬉しい」って言いたいな。
だけど言葉は出てこない。
その代わり、私は町田くんと目を合わせて微笑んでみせた。
「橘、大学決めた?」
少し無言の時間は続き、町田くんがそう切り出した。
沈黙はちっとも怖くなかった。
「うん。九州の大学受ける」
「九州!?なんでまたそんな遠いとこ…」
ずっと前から決めていた志望校。
逃げていた受験勉強に、もう一度向き合うことに決めたんだ。