溶けろよ、心

2人で本屋に入る。
橘は迷わず小説コーナーに向かった。俺もそれについて行くことにする。


「あ、これか。今日見るやつ」

棚に平積みになっている文庫本を手に取る。

「うん。私読んだよ。面白かった」


「へー。俺も読んでみるかな」


「貸すよ。ていうか、仮にも受験生……」


橘の言葉が途中で途切れた。
橘を見ると、その視線は雑誌コーナーに向いている。

悲しそうな表情だった。前に志賀の話をした時も同じ表情をしてた。
泣きそうな、今にも崩れそうな。



今や街中に志賀は溢れてる。本屋に行けば雑誌の表紙を飾ってるし、色んなところで歌が流れてる。テレビにもよく出てるし、最近はCMでも見かけるようになった。


橘が志賀を忘れようとしても、視界に嫌でも入ってくる。


志賀、お前から橘は見えないけど、橘からはよく見えてる。その度に橘は傷ついた顔をする。


俺はどうやったら、この子を助けられるんだろう。
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