溶けろよ、心
「橘、食べないの?」

「あ、食べる」

私もちょこんと町田くんの隣に座った。

「……俺さ、まだちょっと不思議なんだよね。橘とこうして話してるの」

「え、どうして?」

「橘の声は、スピーカー越しにしか聞いたことなかったから」

放送部だった頃、そんな風に聴いてくれてる人がいるなんて思ってもみなかった。


マイクの前に座ってスイッチをオンにする。ふうって息を吐いて、3秒間口を膨らます。カフを上げたら鼻から息を吸う。口角を上げて、目の前に人がいるのを想像して声を出す。

毎回緊張してたけど、それすらも心地いいくらい、私はマイクの前が好きだった。自分の好きなことを認めてもらえるのは、やっぱり嬉しい。


「前に言ってくれた時、言えなかったけど、すごく嬉しい。ありがとう」

私がちゃんと町田くんの目を見て言うと、町田くんは照れた。かわいいと思った。

「なんかもう……調子くるう…」

町田くんは自分のおでこを手でおおって言った。

その姿に、自然と笑みが零れた。
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