溶けろよ、心
去っていく藤山くんの背中を見つめながら、町田くんが言った。

「先輩なんだね、橘も」

町田くんがたこ焼きの蓋を開ける。ペリペリペリッて、輪ゴムが擦れる音。なんだか懐かしい。

「うーん。どうかな。でも藤山くんは期待の新人だから。いい声だったでしょ?」

入部当初は素人だった藤山くんは、熱心に練習に参加してくれて、初めての大会で決勝に進んだ。すごいことだ。

「私はあがり症で、結局最後まで大会で結果は残せなかったから。藤山くんを尊敬してるんだ」

「……俺からしたら、橘も十分すごいけどね」

冷めてしまったたこ焼きを、2人で分ける。

「何が?」

「橘の声聞くと、安心する」

「そうかなあ」

町田くんは本当に私の声が好きみたい。声を褒められるのって、なかなか照れる。
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