溶けろよ、心
「橘」
花火の途中で町田くんが言ったのが聞こえた。
聞こえないふりをしたら、町田くんはそれ以上何も言わなかった。
*
町田くんは家まで送ってくれて、結局、私の家の前まで手は繋いだままだった。
「送ってくれてありがとう……楽しかった」
私が手を離すと、町田くんが「ちょっと待って」と呼び止めた。
「俺の方が楽しかった。夏休み、また遊ぼ」
とだけ言うと、じゃあね、と手を振って踵を返した。
私も、町田くんの背中に手を振る。
俺の方が…って。おかしくて、一人で笑った。