溶けろよ、心

「橘」

花火の途中で町田くんが言ったのが聞こえた。
聞こえないふりをしたら、町田くんはそれ以上何も言わなかった。








町田くんは家まで送ってくれて、結局、私の家の前まで手は繋いだままだった。

「送ってくれてありがとう……楽しかった」

私が手を離すと、町田くんが「ちょっと待って」と呼び止めた。

「俺の方が楽しかった。夏休み、また遊ぼ」

とだけ言うと、じゃあね、と手を振って踵を返した。

私も、町田くんの背中に手を振る。

俺の方が…って。おかしくて、一人で笑った。
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