溶けろよ、心
志賀は、俺に橘の名前は明かさずにいくつかエピソードを話してくれた。

『口下手だからさ、気許したやつとしか話さねえんだ。放送部入ったって聞いた時は腰抜かしかけたよ』


『緊張したら手がすげー動くんだよ。本人はあんまり意識してないらしいけど』


『結構危なっかしいやつかも。見てて飽きないんだよね。呆れることはよくある』



『笑うとかわいいけど、怒るとうざいからなあ』


志賀は、その子は知り合いだって言い張った。俺は心の中で、「嘘つけよ」って笑った。

志賀の顔を見てたら、ああ、大切な子なんだなってわかった。


志賀目線の橘の話を聞いたからだと思うけど、俺の中で橘の、かわいいっていうイメージができて。

幸せそうに話す志賀に影響されて、俺は恋をした。



きっと志賀は、俺の気持ちに気づいていた。だから、こんなことを頼んだんだろう。
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