溶けろよ、心

ガタン!

大きく揺れた。

「……大丈夫?」

よろけたところを町田くんが支えてくれる。
恥ずかしさがもっと増す。


「危なっかしいね」

「…え……」



晴斗がよく言う台詞……。


私は強くなったはずなのに。町田くんがそんなこと言うからだ。思い出してしまう。

「今俺、橘を抱きしめてるみたい?」

「あ、ご、ごめん!」

気づくと、ずっと町田くんの腕の中だった。
すぐに離れる。

ちらっと町田くんを見ると、くすくす笑っていた。

からかいやがって〜!


支えてくれたのにお礼も言えず、私は車内の広告を見つめ続けた。
脳裏に浮かんだはずの晴斗は、もう姿を消していた。
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