もし君に好きと言えたなら
あの日は受験シーズンも本番に近付き、あと一ヶ月で私立受験という日だった。
吐く息が白く染まり、寒さに少しだけ身を縮めた。
辺りは既に暗くなっており、沢山の車がライトを点灯させたまま塾の前に停車していた。
入り口の近くでは、自分の家の車はどれかと探すものや、電話をしてどこにいるか確認している声が聞こえてくる。
多分に漏れず、俺も入り口の横に立ち、イヤホンで音楽を聴こうとしていた時だった。
「あの…っ」
その声は、他の人達の笑い声にかき消されてしまうんじゃないかと思うくらい、か細くて小さいものだった。
その声に俺は、イヤホンを耳にかけるのを止める。
「どーした?」
身長が小さく、声が少し小さな彼女にあわせ、聞き取りやすくするため少しだけ膝を曲げた。
俺の周辺にいた奴らは、迎えの車を見つけたのか、気が付けば入り口の近くにいたのは俺と彼女だけになっていた。
「好き…です。だから…その、付き合ってくれませんか…?」