野良ネコと…………ひなたぼっこ
「もしもし、先生。」

電話の後ろの雑踏が聞こえて、不安になる。

いつもは、必ず家に帰ってからかけてくるからだ。

付き合い始めの頃……

遅くなるのを心配して、時々駅まで迎えに行っていたら

気を使って、帰るまで電話してこなくなった。

それなのに…………。

一昨日、お父さんの事があったばかりだし心配になる。

「何かあった?」と聞いても

「何もないよ。彩ちゃんの所の帰りで、今日も楽しかったよ!」って……

彼女の『大丈夫』が大丈夫でない事など、彼女に近い人間は……

みんな承知している。

それだけに、鵜呑みには出来ない。

「そう??」と疑えば

「うん。何もないよ。早く声が聞きたかったの。」って……

こんな言葉を素直に言うのもおかしい。

一人になったとたん、淋しくなったのだろうか??

淋しいのかと聞いたら

「全然、むしろスキップしたくなる程楽しい。
本当に先生の声が聞きたかったの。
先生の事が大好きだなぁ~って思ったら、我慢出来なかった!!」って…

おいおい!!本当に大丈夫だろうか??

「酔ってないよね??………迎えに行こうか?」って聞いたが……

オレは、既に車のキーを持って歩いてる。

「飲めないもん、飲んでません。
一人で帰れるから大丈夫だよ。ただ、電話は付き合ってね。
本当はね。………………今、四人に一昨日の事を話したの。」

一瞬、お父さんの事??と思ったけど………

たぶん、プロポーズの事だよなぁ。

「プロポーズ?」って確認すると………

うんって……。

やっぱり。

たぶん彼女は、結婚前提にっていうのを理解してないはずだ。

だったら、聞くのはもちろん四人。

ちゃんと答えるかは疑問だけど……

唯ちゃんが悩むようなことは言わないだろうと踏んでいる。

たとえからかったとしても、最後には納得のいく答えを教えるだろう。
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