龍使いの歌姫 ~神龍の章~
龍の谷での生活
「痛みますか?神龍様」

『…………フゥー………フゥー………』

城の地下には大きな空洞があり、その空洞には、神龍が結界の中で丸まっている。

まるで猫のように体を丸め、尻尾を体に巻き付けるようにしながらも、神龍は目を開けまま、荒く息を吐いている。

神龍の鱗は、所々黒く変色しており、隙間から見える鱗だけが金色だ。

だが、随分とくすんでいた。

「病が原因ですな。……また生け贄を差し出さねば」

『シャァァァァァ!』

不意に興奮したように目をカッと開き、神龍は尻尾を無造作にくねらせ、結界を叩く。

「………」

神龍は、彼女がここに仕えている時から、一度も人の言葉を喋ったことはない。

龍は知能や魔力を持つもの、そしてその能力が高ければ高いほど、人の言葉を覚え、喋るらしいが。

神龍と心を通わせられたのは、赤と白の民を除けば、今まででただ一人と言われている。

それは、初代龍王。

龍と言葉を交わせるのは、心を通わせられるほどの清らかさを持った者。あるいは、赤の民と白の民だけだ。

今の龍王も、その兄も、神龍と話すことは出来ない。

(だが、セレーナ様は神龍様と心を通わせる資格がある。今は、まだ心が幼い故話すことは叶わないだろうが)

けれども、占いの通りならば、セレーナはこの国の龍王となり、この国を導いていける。

神龍は他国からの侵略を防ぐための、国の権威を示すための存在。

そんな神龍を従えることが出来る龍王は、神龍よりも上の立場にいることになる。

ようは、龍王こそがこの国の神。それが、正しいと老女は思った。

「さて、生け贄を見付けねば」

一通り暴れた神龍は、また大人しく結界の中で丸くなる。その様子を見てから、老女は階段へと近付く。

(清らかな心を持った、今度は娘が良いだろうな)

すべては、この国のために。
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