龍使いの歌姫 ～神龍の章～

飼われた竜のような

「二度の失敗は許されない。……お前を姫様の元に連れていく」

「……どうして、お姫様が私を？」

「忌み子である貴女に興味があるらしいからな」

竜騎士は、レインを「貴女」と呼び、レインを大人の女性として扱った。

だが、そんな気遣いなどされたところで、自分を連れてこうとすることにかわりない。

「お断り申し上げます」

「次期龍王様であらせられる姫様の命令に、ただの娘が逆らえるとでも？」

確かに、龍の谷に住んでるとはいえ、レインもこの国の人間であることにはかわりない。

だが、それでも一緒に行こうとは思えない。

「お断り申し上げます」

同じことを言うと、レインはジッと竜騎士を見る。

「貴方は、どうして竜達を殺すのですか？騎士を名乗りながら、何故？」

「それが、姫様に与えられた使命だからだ」

命令で動いているだけだと、竜騎士は言った。

「……貴方は、お姫様の命令通りに動く、お人形ですか？」

「………」

「貴方の意思は？貴方は本当に竜達を殺したいのですか？何故殺さなければいけないのだろうと、考えたことはないのですか？」

龍達を憎んでいる訳でもない。けれども、ノノンの父親のように、竜を飼育してる訳でもない。

ただ、龍を卵のうちから、あるいは野生で見付けたら殺し、城で使えなくなった竜の首を落とす。

ただ、そう命令された。それだけの理由で。

「貴方は、一度でも疑問に思ったことは無いのですか？」

「……同情したところで、何が変わる？俺は姫様がそう望むからそうしただけだ。俺はあの方に命を救われた」

命を救われたその代わりに、絶対の忠誠を誓い、どんな命令にも従う。

それが、彼女にした自分の誓い。生きるための条件。

「……悲しいですね」

「何だと？」

「貴方はまるで、檻に入れられた竜のように、自分の意思を持てず、思い通りに動かされています。私には、貴方は、人に飼われてしまった竜達と同じに見えます」

レインはギュッと服の裾を握った。

可哀想という同情心というよりも、彼がそんな風に生きられないのが、純粋に悲しかった。

感情を持った、彼もまた生き物。自分の道を自分の意思で決めることが出来ると言うのに。

まるで、心を無理矢理押し殺しているような気がした。