龍使いの歌姫 ~神龍の章~
「………」

竜騎士は、初めて動揺を露にした。

レインの言葉が、頭の中をぐるぐると回る。

―檻に入れられた竜のように、自分の意思を持てず、思い通りに動かされています―

(俺は、城にいる竜と同じ……か)

本当は分かっていた。自分のやっていることは何なのか。

けれども、今さら後戻りは出来ない。

歪んでしまっているセレーナを、今自分が見捨てるような真似をしたら、彼女は本当に壊れてしまう。

城で飼われている竜には、神龍と同じような役目がある。だが、使えなくなってしまったら殺す。

それは分かる。役目を終えたならば、いつまでも生かされる竜も気の毒だからだ。

だが、何故野生の龍までも殺さなくてはいけないのだろうか?

野生の龍は、こちらが干渉しなければ、向こうから刃を向けるようなことはしない。

だが、自分は見つけ出してでも殺せと言われた。

卵も、野生の龍の卵をわざわざ殺す理由も、確かに疑問に思った。

だが、これに関しては何となく、自分の中で納得できた。

生まれて死の苦痛を味わうより、何も知らない内に死んだ方がマシなのではないかと。

「………っ」

たった一人の、それも何度も対峙した彼女の一言で、迷ってしまったことに、腹が立った。

「………」

二人の様子を、アルは黙って見ていた。アルにとっては竜騎士は、敵以外の何者でもない。

だが、レインは無闇に自分が竜騎士と戦うことを望まないだろう。

だから、大人しくしていることにした。

ティアは竜騎士が怖いのか、ゼイルの後ろに隠れている。

レインと竜騎士は、声を発することなくお互いを見ていた。

長い沈黙、息が詰まるような時間にも、終わりというのは来る。

「……貴方は、龍の谷で暮らしているのだな」

「はい」

「龍の谷で、貴女も『龍使い』の称号を得たのか?」

竜騎士は視線で、ゼイルの後ろにいるティアを指す。

「そうです。けれども、私は『歌姫』の役割を担―」

「歌姫だと?!」

レインの言葉を阻み、竜騎士は唖然とした顔でレインを見る。

「まさか……そんな筈は……貴女は龍を癒せるとでも?」

「?良く分かりませんが、龍達に歌を聴かせてほしいと、言われたので」

レインの言葉に、竜騎士は頭がついていかない。

(龍使いの称号だけならまだしも、歌姫の称号をも得ただと………)

そんなのはあり得ない。だが、もし本当だとしたら―。

「……歌え」
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