龍使いの歌姫 ~神龍の章~
「……何を……言っている?」

確かに自分には両親の記憶はないし、龍の谷で生まれた訳ではないだろう。

けれども、自分が龍王の血を引いている筈がない。

「……生まれた赤子は、赤い髪に金色の瞳を持った男児だった。性別を知っているのは、龍王様とほんの一握りの数名だけだな。そして、名前も付けられてはいた。『アルビオ』とな」

「なっ―!?」

殴られたような衝撃を受けたような気がした。

サザリナの言った「アルビオ」と言う名前は、長老から聞いた。

だが、長老は「アルビオ」ではなく「アル」と名乗るよう言っていた。

何故なのかは分からなかったが、別に名前にこだわりなど無かったので、ずっと「アル」と名乗っていた。

「………」

「お前が死んだ筈の王子だったとしても、今更関係ないことだがな。アルビオはもうこの世にいない」

サザリナの淡々とした言葉に、アルは納得した。そして、何故か笑いたくなった。

「ふっ……ははっ。確かにその通りだな。例え僕が龍王の血を引いていたとしても、僕は僕でしかない。龍に育てられた、龍を守る者。それが僕だ」

「………」

「それで?僕が殺し損ねた赤子だったとして、お前は僕をどうする気だ?」

アルは皮肉気な笑みを浮かべたまま、サザリナを見上げる。

「……お前もまた、神龍様の生け贄に相応しい心の持ち主だな。もう一人の忌み子の娘が生け贄としての役目を終えたら、次はお前を差し出すとするか」

「!お前、レインを生け贄にする気か?!」

サザリナの言葉に、アルは怒鳴る。

そんな事のために、レインを連れてきたのかと怒りが沸き上がった。

「お前もまた、国のことを分かっておらぬ。神龍様がいなければ、どうなるか分からないのか?」
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