龍使いの歌姫 ~神龍の章~
「……」

アルは黙ってサザリナを睨み付ける。

「まあ良い。生け贄の娘に会ってくるとしよう。今度の生け贄は、とても清らかな心を持った娘らしいな」

サザリナは首だけアルを振り返る。

「お前もまた、心清らかだが、その娘には負けるだろう。同じ忌み子でもまた違うのだな」

そう言って喉の奥で笑うと、サザリナは牢屋を出ていった。

「……レイン」

守ると誓ったのに、自分は何も出来なかった。

それが、酷く腹立たしい。

「生け贄だと?…………はっ、くだらない。馬鹿げている」

神龍に生け贄を差し出したところで、何が変わると言うのだろう?

そもそも、何故神龍に生け贄が必要なのだろう?

「あいつが清らかだから……か」

ならば、尚更彼女は生け贄にすべきではないだろう。

(何とか、ここから出ないとな)


「それでね!私色々考えたの!貴女と何して遊ぼうかしらって」

「………えと」

「やっぱり着せ替えごっこが良いわね!貴女に似合いそうな服、いっぱい用意してあげる!」

セレーナはうきうきした様子で、先程から楽しそうにレインに話しかけている。

だが、レインの意見を聞く気は無しだ。

「セレーナ様!」

「?なぁに?」

少し大きめの声でセレーナを呼ぶと、ようやくこちらを見てくれた。

「あの、一つお伺いしたいのですが」

「?良いわよ。何でも聞いて?」

「……私と同じ髪の男性が、一緒に連れてこられた筈なのですが、どこにいるのかご存じありませんか?」

レインの言葉に、セレーナはうーんと首を捻った。

「そう言えば、竜騎士が赤い髪の『二人』を捕らえたって言ってたから、多分その人のことも入ってるわね。貴女は私がここに連れてくるよう言ったから、特別にお部屋があるけど……もう一人は」

ちらっとレインを見ると、セレーナはクスッと小さく笑う。

「牢屋にでも入ってるかもしれないわね!」

(牢屋に……)

アルをそこから出してもらえないかと思い、レインはセレーナに頼んでみようと口を開く。

「あの―」

だが、不意にノックの音が響いた。
< 35 / 76 >

この作品をシェア

pagetop