龍使いの歌姫 ~神龍の章~
「………違う」

「?」

どういうことだろうか?声は確かに、四年間ずっと聞き続けていたレインのものだ。

アルの訝しげな視線に気付いているのかいないのか、レインは掠れたような声で続ける。

「もう……分からない。……分からないわ。私は誰なの?私は何なの?」

「………」

レインの声は俄に震え、鼻を啜る音も混じっていた。

喋り方も変わっているが、やはりアルには分かる。今目の前にいるのは、レインだと。

「っ……アル……教えて……」

その場に膝を着いた音がし、アルはジッと前を見つめる。

すると、突然薄暗い牢屋に月明かりのような光が差した。

「!!」

地下にあるこの牢屋には窓が無い。にも関わらず、牢屋は光りに照らされている。

だがアルは、明かりが灯ったことよりも、目の前に立っている人物の容姿に驚いた。

白い髪と赤い瞳。龍王家の血を引く人間である証。

だがその顔と、先程聞いた声から、やはり自分の知っている女性だと分かる。

泣きはらしたような顔で、体を震わせながらこちらを見ているレイン。

「………」

何も言わないアルに、レインはどうすればいいのか分からず目を伏せた。

アルが今何を考えているのかが分からない。それが、怖い。

軽蔑されるのが、違うと言われるのが、怖い。

「…………綺麗だな」

「え?」

アルの言葉の意味が分からず顔を上げる。

「何で……どういう……」

「思ったことをそのまま言っただけだ。まぁ、僕は赤い髪のお前の方が……その、似合ってるとは思うが」

視線を反らしながら言うと、レインは困ったように眉を下げる。

アルの言葉の意味が分からないのだ。

「……で、お前がそんな姿になったことと、さっきの質問は何の関係があるんだ?」

「私が、気味悪いって思わないの?どうしてアルは、そんなに冷静なの?」

「僕にとっては、お前の容姿が変わろうと関係無いことだ。大体、見た目が変わっても、お前の中身は変わってないだろ。気味悪がる必要がどこにあるのか、逆にこっちが聞きたい」

いつも通りのアルの態度と言葉に、レインは力が抜けた。

「……私のこと、聞いてくれる?」

「むしろ、話してもらわないと判断のしようも無いだろ」

アルの言葉に、レインはやっと落ち着くことが出来た。

「……私の本当の名前はね。エレインって言うの」

< 49 / 76 >

この作品をシェア

pagetop