龍使いの歌姫 ~神龍の章~
エレインの過去
「セレーナ!早く早く!」

「ま、待って。置いてかないで」

エレインとセレーナは、顔のそっくりな双子だった。けれども、性格は真逆だ。

エレインは外に出たり、人と話をするのが好きだったが、姉のセレーナは、部屋に引き込もって、絵を描いたり人形で遊ぶ方が好きだった。

それでも、二人はとても仲の良い姉妹だった。

「今日ね、お城に野生の龍が献上されたの。見に行きましょう?」

「……龍なんて、私怖いわ」

エレインは龍や竜を怖いとは思わなかったが、セレーナは竜を恐れていた。

特に、野生の龍ほど得たいの知れないものはないだろう。

「……んー。じゃあセレーナは部屋で待ってる?後でいっぱい遊びましょう?」

「………エレインがそう言うなら」

エレインは城の中庭へと走っていく。すると、翼の生えた黒い龍が暴れていた。

恐らく体を縛られ、見知らぬ人々に囲まれて怯えたのだろう。

翼を動かし、刃を振りかざしていた。

「チッ。大人しくしないと殺すぞ!」

『グルルル………』

小さく唸り声を上げながら、兵士を睨み付ける龍。兵士は龍の首を切り落とそうと大剣を振り上げた。

エレインは思わず兵士と龍の間に割って入る。

「止めなさい!」

「!姫様」

エレインは龍を庇うように両腕を広げた。

そして、兵士の動きが止まったのを確認してから、龍の方へ振り返る。

「……怯えなくて大丈夫よ。誰もあなたを傷付けない。私が傷付けさせないから」

『………』

こちらを見下ろす龍へと、エレインは両手を差し出しながら微笑む。

「ね!」

『……ありがとう』

龍はエレインへと頭を下げた。


その後、龍は生かされたが、その代わりとして、エレインに忠誠を尽くし、永遠に人間の姿でいることを誓った。

それが、後に竜騎士と名乗る、同族殺しの男―ロラン。

ロランが人間の姿で、エレインに仕えてから一年後、セレーナが神龍と心を通わせる儀式を行う日が来た。

だが、セレーナは神龍を怖がり、泣いていきたくないとエレインにすがりついた。

セレーナがあまりにも嫌がるので、エレインは自分がセレーナのふりをして、儀式に行くと告げた。
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