龍使いの歌姫 ~神龍の章~
「ここから先は、セレーナ様一人で神龍様と対面せねばなりません」

城の人間で、セレーナとエレインを見分けられる者は、ロランを除けば、ティアナとレオンだけだった。

「はい」

エレインは神龍の間へと入ると、大きな龍に思わず溜め息が漏れた。

「……綺麗」

『それは、ありがとうと言っておくべきじゃな』

「!」

こだまがかかったような、凛とした声が聞こえた。

『お主は、龍王の子じゃな。名前は?』

「エレ―いえ、セレーナ……です」

思わず自分の名を言いそうになったが、自分は今セレーナのふりをしているのだと思い出すと、慌てて言い直す。

『ふっ……。お主は素直な人間らしいの。それはお主の名では無いじゃろう?……本当の名は?』

「……エレイン……です」

『そうか、エレインか。良い名じゃの』

エレインは本名を名乗ってしまったことで、どうしようかと悩んだ。

セレーナのふりをしたと、他の人にもバレてしまうかもしれない。

別に、エレインだけが怒られるならまだしも、セレーナまで怒られないかと心配だった。

何せ母は、エレインとセレーナが母の兄と顔が似ているせいで、二人を嫌っているのだ。

きっと、セレーナのことも罵って叱るだろう。

『……心配せんでも、お主がエレインであることは、誰にも言わぬ。どうせ、他の者には私の声は聞こえんからな』

「?でも、お母様―龍王様は、初代の龍王様と同じ姿だから、龍王様になれたんですよね?私とセレーナみたいな姿の人は、神龍様と心を通わせることが出来るからって」

エレインは世話係だったティアナから、そんな話を聞いていた。

『……人の情報と言うのは、歴史と共に間違って伝えられることが多いの。神龍である私と話が出来る者は、私達を思いやる気持ち、穢れ無き優しさと、清らかな心を持ったものだけじゃ』

神龍は語った。

白の民と赤の民は、確かに特別な力を持ってはいた。だが、世界が始まった時は、ただの人間達と龍は心を通わせる事が出来ていた。

龍と心を通わせる者。それは、例え言葉が通じずとも、心から相手を慈しむ事が出来る人間だけだと、彼女は言った。

『じゃが、時と共にこの国は穢れを溜め込んでおる』

「……?穢れ?」
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