龍使いの歌姫 ~神龍の章~
「契約だと?」
竜騎士の訝しげな視線に、レオンは笑って頷いた。
「ティアナはね、自分の師匠にレインを殺すよう命じられていたんだ。……でもね、出来なかったんだよ。彼女もまた優しい子だったから。だから、彼女はレインの命を救うために、僕に頼んだ」
―お願い、姫様と姫様に関わった全ての人の記憶を消して―
必死にこちらへ頭を下げられ、レオンは承諾した。
「けれども、記憶を消す代償はかなり大きい。だからね、消すのではなく『忘れさせる』ことにしたんだ。僕はレインが神龍から貰った龍笛に、レインの記憶を封じ込めた」
レインが記憶を取り戻したら、レインに関わった者達の記憶も戻るという条件で。
「だから、僕にレインの横笛を守れと言ったのか」
「……そう。あれさえ無事なら、レインが幸せでいられると思ったからね。そして、記憶を書き換えたのは、空白のままだと不自然だから、今までレインが行っていたことは、全部セレーナがやっていたことにすり替えたんだ」
だから、竜騎士はセレーナが自分を救ったと思った。
「因みに、レインの髪色を変えたのは彼女だから、何故赤い髪なのかは、ティアナにしか分からないけどね」
レオンは目を伏せて、力なく笑う。
「……本当はね、この国がどうなろうと、レインが幸せになれるのなら、思い出さない方がいいかと思ったんだ」
けれども、運命は変えられなかった。どんなに遠ざけようとも、レインがいずれ、記憶を取り戻してしまうことは決まっていた。
「サザリナ様は、何故エレイン様を?」
「それは―」
「エレイン様が、神龍様を殺してしまうからじゃ」
レオンの言葉を阻むように、老女の声が聞こえた。
「サザリナ……」
セレーナが顔を上げると、レインはサザリナを振り返る。
「エレイン様は神龍様を殺してしまう。そう予言したから、わたくしは国のために、エレイン様を―」
「ふざけないで!私の妹を占い師ごときが殺すですって?!冗談じゃないわ!」
セレーナは立ち上がると、サザリナを怒鳴り散らす。
「リトも、貴女のせいで死んだのよ!」
「……え?」
レインは従弟であるリトとはあまり接点が無かったが、血の繋がった存在が亡くなっていたことに、衝撃を受けた。
「それも、神龍様をお救いするため」
(………違う)
そんなこと、神龍は望んでいなかった筈だ。
(……神龍様が望んでいたのは……)
レインは立ち上がると、レオンを見る。
「……幻惑の魔法使い。貴方は神龍様を私が救えると思ったから、私を拾ったのですよね?」
レインの言葉に、レオンは頷く。
「……私なら、救えますか?」
「むしろ、君でなくては救えない。彼女は今、とても苦しんでいるから」
レオンの言葉に、考え込むように目を閉じてから、レインは決意を固める。
「………分かりました。私がそうするべきなら、そうしましょう」
レインが頷くと、レオンは満足げに微笑んだ。
そして、手を前へとかざすと、ブツブツと何かを呟く。
そして、光と共に銀色の弓矢が現れ、それをレインへと差し出した。
「神龍はこの銀の矢でなくては殺せない。君の魔力と銀の矢。この二つが揃って初めて、浄化することが出来るからね」
「魔力?」
「どうしてティアナが歌うなと言っていたんだと思う?……君が歌うと、魔力が溢れだす。そして、その魔力は龍を癒す。……清らかな君は魔力を持って生まれた。だから、その魔力で君の居場所がバレないかと恐れたんだ」
レオンはサザリナを見ながら言う。
「……ティアニカ……いえ、姉さんもまた、私を守ってくれていたんですね」
「そう。本当の姉のような気持ちでね」
レインは受け取った銀の弓矢を握り締め、牢屋の入り口へと向かう。
竜騎士の訝しげな視線に、レオンは笑って頷いた。
「ティアナはね、自分の師匠にレインを殺すよう命じられていたんだ。……でもね、出来なかったんだよ。彼女もまた優しい子だったから。だから、彼女はレインの命を救うために、僕に頼んだ」
―お願い、姫様と姫様に関わった全ての人の記憶を消して―
必死にこちらへ頭を下げられ、レオンは承諾した。
「けれども、記憶を消す代償はかなり大きい。だからね、消すのではなく『忘れさせる』ことにしたんだ。僕はレインが神龍から貰った龍笛に、レインの記憶を封じ込めた」
レインが記憶を取り戻したら、レインに関わった者達の記憶も戻るという条件で。
「だから、僕にレインの横笛を守れと言ったのか」
「……そう。あれさえ無事なら、レインが幸せでいられると思ったからね。そして、記憶を書き換えたのは、空白のままだと不自然だから、今までレインが行っていたことは、全部セレーナがやっていたことにすり替えたんだ」
だから、竜騎士はセレーナが自分を救ったと思った。
「因みに、レインの髪色を変えたのは彼女だから、何故赤い髪なのかは、ティアナにしか分からないけどね」
レオンは目を伏せて、力なく笑う。
「……本当はね、この国がどうなろうと、レインが幸せになれるのなら、思い出さない方がいいかと思ったんだ」
けれども、運命は変えられなかった。どんなに遠ざけようとも、レインがいずれ、記憶を取り戻してしまうことは決まっていた。
「サザリナ様は、何故エレイン様を?」
「それは―」
「エレイン様が、神龍様を殺してしまうからじゃ」
レオンの言葉を阻むように、老女の声が聞こえた。
「サザリナ……」
セレーナが顔を上げると、レインはサザリナを振り返る。
「エレイン様は神龍様を殺してしまう。そう予言したから、わたくしは国のために、エレイン様を―」
「ふざけないで!私の妹を占い師ごときが殺すですって?!冗談じゃないわ!」
セレーナは立ち上がると、サザリナを怒鳴り散らす。
「リトも、貴女のせいで死んだのよ!」
「……え?」
レインは従弟であるリトとはあまり接点が無かったが、血の繋がった存在が亡くなっていたことに、衝撃を受けた。
「それも、神龍様をお救いするため」
(………違う)
そんなこと、神龍は望んでいなかった筈だ。
(……神龍様が望んでいたのは……)
レインは立ち上がると、レオンを見る。
「……幻惑の魔法使い。貴方は神龍様を私が救えると思ったから、私を拾ったのですよね?」
レインの言葉に、レオンは頷く。
「……私なら、救えますか?」
「むしろ、君でなくては救えない。彼女は今、とても苦しんでいるから」
レオンの言葉に、考え込むように目を閉じてから、レインは決意を固める。
「………分かりました。私がそうするべきなら、そうしましょう」
レインが頷くと、レオンは満足げに微笑んだ。
そして、手を前へとかざすと、ブツブツと何かを呟く。
そして、光と共に銀色の弓矢が現れ、それをレインへと差し出した。
「神龍はこの銀の矢でなくては殺せない。君の魔力と銀の矢。この二つが揃って初めて、浄化することが出来るからね」
「魔力?」
「どうしてティアナが歌うなと言っていたんだと思う?……君が歌うと、魔力が溢れだす。そして、その魔力は龍を癒す。……清らかな君は魔力を持って生まれた。だから、その魔力で君の居場所がバレないかと恐れたんだ」
レオンはサザリナを見ながら言う。
「……ティアニカ……いえ、姉さんもまた、私を守ってくれていたんですね」
「そう。本当の姉のような気持ちでね」
レインは受け取った銀の弓矢を握り締め、牢屋の入り口へと向かう。