龍使いの歌姫 ~神龍の章~
「……お母様」
「…………」
レインは実の母の元に来ていた。だが、龍王は何も答えない。
「私を生んだことを、貴女は後悔していますか?」
「………」
「それでも、私を生んでくださったことを、私は感謝しています。……新しい王は、姉様がなるでしょう。私は……エレインはもうこの世にはおりませんから」
答えを返してくれないと知りながら、レインは話続けた。
「私は龍の谷の近くで暮らしたいと思います。人と龍の住む場所を分けるのならば、私も龍達と住むわけにはいきませんから……ですから、お母様にお会いするのも、これが最後です」
レインはベットで横たわったまま、遠くを見ている龍王へと頭を下げると、部屋を出ようとする。
すると―。
「わらわには、エレインと言う娘など、最初からおらんかった。……そなたなど、知らぬ。だから、どこへ行こうと構わぬ」
「………はい」
レインは頷くと、部屋を出ていく。
もう、この国は龍王の国ではない。龍を制する王などは存在しないのだから。
セレーナは、自分が王になり、龍を龍が生きるべき場所へ帰すと、レインに約束した。
そしてレインには、自分の分まで、自由に生きろと。
「……本当に、良かったのですか?」
「ええ。構わないわ……これは、私の償いでもあるの。あの子が望んだように、私も龍と人が共に生きれる道を、私なりに探しましょう」
セレーナは隣に立つロランへと、ちらりと視線を送る。
「むしろ、貴方こそ良かったの?貴方の主は……私では無いのよ……」
「……私は、記憶を書き換えられたと知っても、貴女の側にいたかったのです。……どうしてなのかは分かりませんが」
セレーナが傷を負った時、ロランはセレーナを失いたくないと思った。
レインを前に誤って切ってしまった時とは、また違う気持ち。
セレーナと、共に生きたいという思いを抱えていることに気付いた。
だから、ロランはここに残った。
「……馬鹿な話かもしれないけど、聞いてくれる?」
「はい」
「私ね、リトを失ってから……貴方に依存していた。貴方だけは離れていかないでと、駄々をこねて、貴方を縛って、苦しめた。……なのに」
セレーナは両手で顔を覆った。
「醜い心を持った私は、それでも貴方を好きになってしまった。貴方がエレインに仕えていたことを思い出して、余計に……貴方があの子の元に行ってしまうのかと思ったら、妬ましくなった」
妹に、大好きな筈の妹に、セレーナは嫉妬した。
「私、いつの間にか貴方が好きだったんだわ。あの子を妬ましく思う自分に気付いて、初めて分かったの。こんな私が―」
「……貴方はいつか、王として相応しい相手と結ばれなくてはいけないでしょう」
ロランの言葉に、セレーナはハッと顔をあげる。
「それが正しいことかもしれません。……けれども、もし貴方が、王となっても私を好きだと言ってくださるなら……私は、貴方を拐いましょう」
「!………いいえ。拐う必要はないわ」
セレーナはロランの手へと、自分の手を重ねて微笑む。
「血縁同士で婚姻する決まりだけど、血縁者がいなければ、自分の愛した人と結ばれても良いでしょう?」
「?」
「だから、私が王になったら、法律を変えてしまうわ。この国はこれから新しく生まれ変わるんですもの。法律も新しくしてしまっても構わないでしょう」
悪戯っぽく微笑むセレーナに、ロランは苦笑する。
けれども、セレーナなら本当に法律すら変えてしまうだろう。そして、いつかレインと同じように、龍と人が生きる道を見付けるだろう。
(……これから、どうなっていくのか)
先のことなど、もう誰にも分からない。
サザリナは牢屋の中で、舌を噛んで自害していた。もう、国の未来を占うものもいない。
けれども、それで良いのだとロランは思った。分からないからこその、未来なのだから。
「…………」
レインは実の母の元に来ていた。だが、龍王は何も答えない。
「私を生んだことを、貴女は後悔していますか?」
「………」
「それでも、私を生んでくださったことを、私は感謝しています。……新しい王は、姉様がなるでしょう。私は……エレインはもうこの世にはおりませんから」
答えを返してくれないと知りながら、レインは話続けた。
「私は龍の谷の近くで暮らしたいと思います。人と龍の住む場所を分けるのならば、私も龍達と住むわけにはいきませんから……ですから、お母様にお会いするのも、これが最後です」
レインはベットで横たわったまま、遠くを見ている龍王へと頭を下げると、部屋を出ようとする。
すると―。
「わらわには、エレインと言う娘など、最初からおらんかった。……そなたなど、知らぬ。だから、どこへ行こうと構わぬ」
「………はい」
レインは頷くと、部屋を出ていく。
もう、この国は龍王の国ではない。龍を制する王などは存在しないのだから。
セレーナは、自分が王になり、龍を龍が生きるべき場所へ帰すと、レインに約束した。
そしてレインには、自分の分まで、自由に生きろと。
「……本当に、良かったのですか?」
「ええ。構わないわ……これは、私の償いでもあるの。あの子が望んだように、私も龍と人が共に生きれる道を、私なりに探しましょう」
セレーナは隣に立つロランへと、ちらりと視線を送る。
「むしろ、貴方こそ良かったの?貴方の主は……私では無いのよ……」
「……私は、記憶を書き換えられたと知っても、貴女の側にいたかったのです。……どうしてなのかは分かりませんが」
セレーナが傷を負った時、ロランはセレーナを失いたくないと思った。
レインを前に誤って切ってしまった時とは、また違う気持ち。
セレーナと、共に生きたいという思いを抱えていることに気付いた。
だから、ロランはここに残った。
「……馬鹿な話かもしれないけど、聞いてくれる?」
「はい」
「私ね、リトを失ってから……貴方に依存していた。貴方だけは離れていかないでと、駄々をこねて、貴方を縛って、苦しめた。……なのに」
セレーナは両手で顔を覆った。
「醜い心を持った私は、それでも貴方を好きになってしまった。貴方がエレインに仕えていたことを思い出して、余計に……貴方があの子の元に行ってしまうのかと思ったら、妬ましくなった」
妹に、大好きな筈の妹に、セレーナは嫉妬した。
「私、いつの間にか貴方が好きだったんだわ。あの子を妬ましく思う自分に気付いて、初めて分かったの。こんな私が―」
「……貴方はいつか、王として相応しい相手と結ばれなくてはいけないでしょう」
ロランの言葉に、セレーナはハッと顔をあげる。
「それが正しいことかもしれません。……けれども、もし貴方が、王となっても私を好きだと言ってくださるなら……私は、貴方を拐いましょう」
「!………いいえ。拐う必要はないわ」
セレーナはロランの手へと、自分の手を重ねて微笑む。
「血縁同士で婚姻する決まりだけど、血縁者がいなければ、自分の愛した人と結ばれても良いでしょう?」
「?」
「だから、私が王になったら、法律を変えてしまうわ。この国はこれから新しく生まれ変わるんですもの。法律も新しくしてしまっても構わないでしょう」
悪戯っぽく微笑むセレーナに、ロランは苦笑する。
けれども、セレーナなら本当に法律すら変えてしまうだろう。そして、いつかレインと同じように、龍と人が生きる道を見付けるだろう。
(……これから、どうなっていくのか)
先のことなど、もう誰にも分からない。
サザリナは牢屋の中で、舌を噛んで自害していた。もう、国の未来を占うものもいない。
けれども、それで良いのだとロランは思った。分からないからこその、未来なのだから。