龍使いの歌姫 ~神龍の章~
「?」

誰かに呼ばれたような気がして、レインは顔を上げる。

「お母さん?」

白い髪を肩より下まで伸ばしたレインは、昔の自分と同じ赤い髪の少女を抱き上げる。

「ん?」

「お母さんは、りゅうを育てたことあるんでしょう?」

娘の言葉に、レインは頷く。

「私ね、いつかりゅうと一緒に暮らすのが夢なの!お母さんが昔、そうしてたように」

「……そう。……叶うわ。いつかきっとね」

レインは優しい眼差しで娘を見ると、目の前に立っている男性に視線を向ける。

「あなた」

「あ!お父さん!」

嬉しそうに手を振る娘に、アルは微笑んだ。そして、そのまま二人を抱き締める。

「お父さん?」

「あなた?」

アルの行動の意図が読めず、二人は不思議そうに首を傾げた。

すると、アルは柔らかい表情で二人の顔を見比べる。

「……幸せだなと、思っただけだ」

「ええ。私も」

「私もー!」

分かっているのかいないのか、娘が手を上げると、レインとアルは微笑んだ。


「じゃあ、私遊びに行ってくるね!」

「あまり暗くならないうちに帰ってきてね」

母に手を振ると、お気に入りの森へと走る―が、人とぶつかってしまった。

「あいたっ!」

「あ、ごめんなさい」

「?……お姉さん、誰?」

旅人のような格好をした女性が、こちらへ手を差し出す。

「私は竜の医術師をしてるの。ノノンって言うのよ。貴女は?」

「私は―」


数年後、この国は隣国との戦争で、何人もの犠牲者を出し、長く続いた憎しみは、やがて終わりを迎える。

そして、その先にある未来を知る者はまだ誰もいない。

この先の未来は、この世界で生きる人々だけが知っているものだからだ。

それでも、龍と人が共に生きている未来があることを、この世からいなくなってしまった女性は、最後まで願っていたと、今も伝えられている。


~龍使いの歌姫 完~
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