御曹司は運命を引き寄せる
ご近所付き合いは遠慮したい
ーーピンポーン。
ズボラな思考で納得しかけたところで、滅多に鳴らないインターホンが響いた。
壁の時計を確認すれば、時刻は7時半を過ぎたところ。
ネット注文も最近はしたことがないから、宅配の線は極めて薄い。
何だろう?
首を傾げながら、私は玄関へと足を進めた。
ピンポーン。ピンポーン。
短い廊下を移動している間に、インターホンがもう二度鳴り響く。
それほど時間は経っていないのに、せっかち過ぎやしないだろうか。
自然と小走りになってしまう。
「はーい。今出ます」
少し大きな声で返事をして、私はスリッパをひっかける。
そして、不用心とは思いながらも、覗き穴を確認することなく鍵を開けた。
「すみません。遅くなりま、し……」
「いえ、こちらこ、そ……」
開いたドアのチェーン越し。
怪しい人ではなかったと安心する間もなく、パチパチと人形のような大きな目で瞬きを繰り返す女性を前に、私はピタリと固まった。
……いや、ありえない。なぜ、こんなところに?
いきなりの非日常に何の冗談かと現実逃避して、私は呆然と立ち尽くした。
その一方。
「キャー、やったわ。運は私に味方したのよ」
何が嬉しいのかは、さっぱりわからない。
それでもおそらくは、私より先に状況を理解した彼女のキャピキャピとした興奮具合は、私の驚きなど遥かに越えて、むしろ尋常ではなかった。
たぶん。いや、確実なご近所迷惑。
上品なワンピース姿で頬を染める、その可憐さからは想像もつかない大きな声は、良くも悪くも、私の逃避する思考を素早く正常に戻す威力があった。
……他の部屋の人に怒られる前になんとかしなくては。
そこで初めて自己保身を考えて、私は一つ問題を思い出す。
……チェーン。
私は考えるより先に、彼女のことを無視して一度ドアを閉めた。
バタン、と鳴る音は勢いのせいか思ったよりも大きい。
なんだかそれが私が嫌がって拒絶したみたいに思われる気がして、私は勝手に慌ててチェーンに手を伸ばす。
早く、早く。
ガチャガチャと焦るほどに外れないチェーンに嫌な汗が出る。
時間にすれば、たった数秒。
大した問題にもならないその間で、私は制限時間に追われる人のように必死な思いでチェーンと格闘していた。
早くーー。
その時、カチャリ、とやっと外れたチェーンに、私は妙な達成感を抱いたけれど、それに酔うことなく、すぐさま勢いよくドアを開けた。
「川島さ……ん……」
いつの間にか静かになっていた5階の廊下に響いた声は、途切れて萎む。
エプロンに、スリッパ。そんな生活感丸出しの格好で飛び出した私は、再び訪れた特大の非日常に、今度こそ頭が真っ白になっていた。
どうして、何で、ここに?
ついさっきも考えたその問いは、やはり声にはならなかった。
夢でも見ているのだろうか。
非日常の彼女以上に、見覚えがある、なんて生易しい言葉では片付けられない非日常の人物がそこにいて、私は目眩がするようだった。
ズボラな思考で納得しかけたところで、滅多に鳴らないインターホンが響いた。
壁の時計を確認すれば、時刻は7時半を過ぎたところ。
ネット注文も最近はしたことがないから、宅配の線は極めて薄い。
何だろう?
首を傾げながら、私は玄関へと足を進めた。
ピンポーン。ピンポーン。
短い廊下を移動している間に、インターホンがもう二度鳴り響く。
それほど時間は経っていないのに、せっかち過ぎやしないだろうか。
自然と小走りになってしまう。
「はーい。今出ます」
少し大きな声で返事をして、私はスリッパをひっかける。
そして、不用心とは思いながらも、覗き穴を確認することなく鍵を開けた。
「すみません。遅くなりま、し……」
「いえ、こちらこ、そ……」
開いたドアのチェーン越し。
怪しい人ではなかったと安心する間もなく、パチパチと人形のような大きな目で瞬きを繰り返す女性を前に、私はピタリと固まった。
……いや、ありえない。なぜ、こんなところに?
いきなりの非日常に何の冗談かと現実逃避して、私は呆然と立ち尽くした。
その一方。
「キャー、やったわ。運は私に味方したのよ」
何が嬉しいのかは、さっぱりわからない。
それでもおそらくは、私より先に状況を理解した彼女のキャピキャピとした興奮具合は、私の驚きなど遥かに越えて、むしろ尋常ではなかった。
たぶん。いや、確実なご近所迷惑。
上品なワンピース姿で頬を染める、その可憐さからは想像もつかない大きな声は、良くも悪くも、私の逃避する思考を素早く正常に戻す威力があった。
……他の部屋の人に怒られる前になんとかしなくては。
そこで初めて自己保身を考えて、私は一つ問題を思い出す。
……チェーン。
私は考えるより先に、彼女のことを無視して一度ドアを閉めた。
バタン、と鳴る音は勢いのせいか思ったよりも大きい。
なんだかそれが私が嫌がって拒絶したみたいに思われる気がして、私は勝手に慌ててチェーンに手を伸ばす。
早く、早く。
ガチャガチャと焦るほどに外れないチェーンに嫌な汗が出る。
時間にすれば、たった数秒。
大した問題にもならないその間で、私は制限時間に追われる人のように必死な思いでチェーンと格闘していた。
早くーー。
その時、カチャリ、とやっと外れたチェーンに、私は妙な達成感を抱いたけれど、それに酔うことなく、すぐさま勢いよくドアを開けた。
「川島さ……ん……」
いつの間にか静かになっていた5階の廊下に響いた声は、途切れて萎む。
エプロンに、スリッパ。そんな生活感丸出しの格好で飛び出した私は、再び訪れた特大の非日常に、今度こそ頭が真っ白になっていた。
どうして、何で、ここに?
ついさっきも考えたその問いは、やはり声にはならなかった。
夢でも見ているのだろうか。
非日常の彼女以上に、見覚えがある、なんて生易しい言葉では片付けられない非日常の人物がそこにいて、私は目眩がするようだった。