オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「社内に流れる松浦くんの噂は聞いたことがある。恋愛方面の噂も。もしもそれが事実だとしたら、篠原をターゲットにするのはやめて欲しい」
なにを、どの立場から言ってんだ、と内心悪態をつきながらも、一応「なんでですか?」と聞くと、加賀谷さんは切実に訴える。
「いい子なんだ。仕事だって要領よくこなしてくれるし、少しわかりにくいかもしれないけど性格だっていい。松浦の恋愛スタイルに口出しする気はない。でも、篠原は――」
「アンタ、友里ちゃんの保護者かなにかですか? それ、なに〝ごっこ〟のつもりですか?」
振った男が、善人ぶってよく言う。
呆れて笑みをこぼした俺に、加賀谷さんは驚きのあまり言葉もないようだった。
このひとはきっと、いいひとなんだろう。男女問わず同じ笑顔を向けられて、仕事での信頼も厚く、同じ部署の女の子を傷つけないために、おいしいチャンスを捨てて俺を追ってきたくらいなんだから。
だから、友里ちゃんだって惹かれた。
「俺と友里ちゃんの関係に口出しする権利は、アンタにはない」
切れ長の目をじっと見据えて告げる。
「お疲れ様でした」とだけ言い背中を向けたけれど、うしろからはなにも追ってこなかった。
マンションに着くまでの三十分。ずっとイライラしていた。