オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「昨日、本を読んだんです。なんとなく目に留まって買った文庫なんですけど……主人公の男性の名前が〝松浦〟だったんです」
予想とはまったく違う話をされ、内心驚く。
加賀谷さんは昨日の件を友里ちゃんには話していないんだな、と思いながら「へぇ、同じ名前だ」と返す。
そういえば彼女の趣味は読書だと、社員旅行の名簿に書いてあった。
「いいヤツだった?」
「どことなく松浦さんに似てました。容姿端麗で軽くてチャラチャラしてて、自信過剰な感じで……」
「あれ。俺、ディスられてる?」
苦笑いをこぼすと、友里ちゃんは〝そんなことありません〟とフォローするわけでもなく、物語の説明に入る。
「そんな、恵まれた容姿のせいで性格にちょっと問題がある〝松浦くん〟は、初めて真剣な恋をするんです。自信たっぷりの〝松浦くん〟は当然アプローチするんですけど、今までのチャラい行動が原因でフラれてしまって、人生初の失恋に悲しんでいました」
「……なぜだか俺も胸が痛い」
普段本は読まないし、まして恋愛物はドラマや映画でも観ない。だからただ流して聞いていたのに、物語の〝松浦くん〟があまりに自分に重なるせいで、聞き入ってしまう。