オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「ショックを受けた〝松浦くん〟は、足取りがおぼつかないまま帰路について、そのまま事故に遭って死んでしまうんです」
「衝撃の展開……」
「〝松浦くん〟は幽霊になるんですけど、そのあともずっと空を漂いながら彼女を一途に想い続けるんです。
幽霊の世界にはルールがあって三度まで人間を助けていいことになっているんですけど、その三度ともを彼女のために使ってしまって……最後、〝松浦くん〟は消滅してしまう」
友里ちゃんが澄んだ声で説明してくれる物語は、よくあるものだった。
数年に一度はブームになるような、儚い恋の話。
俺が中学だか高校の頃もたしか、女子がそんな本を読んで〝泣ける〟と騒いでいた覚えがある。
大通りを今日もたくさんの車が行きかう。その走行音や歩行者の声が雑音として広がるなか、友里ちゃんの声に耳を澄ませる。
道路と歩道の境目に植えられている木々には、気の早いクリスマスイルミネーションが施され、ゆっくりとした速度で点灯を繰り返していた。
「でも、消滅する瞬間、彼女と目が合うんです。〝松浦くん〟は幽霊だから彼女の目には映らないのに、しっかり目が合って彼女は〝松浦くん〟の名前を呟くように呼んだんです。
〝松浦くん〟はたったそれだけのことなのに満足して幸せな思いに満たされて消える……というお話でした」
「二度死んだ感じか……悲しいな、〝松浦くん〟」
結局、フラれて死んだわけだし、幽霊になってちょっと報われたからといってそこまで満たされるものだろうか。
目が合って満足、というのがどうしても理解できずに、物語をハッピーエンド風に見せるための綺麗事にしか思えないのは、俺が最低な恋愛ゲームばかりしているからだろうか。