オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「松浦さんって、私のこういう、なんでもない話にも付き合ってくれますよね」
最後の階段を上がりホームに出る。電光掲示板は、あと六分で次の電車がくることを知らせていた。
既にできている列の最後尾に並びながら「そう?」と笑顔を浮かべた。
「惚れてもいいよ。大事にする」
なんの意識もなく、するっと出た言葉に、自分でも驚く。
昨日から、ずっと友里ちゃんと加賀谷さんのことを考えていたからだろうか。だから、思考回路がおかしなことになっていたのか?
だって、そうでもなければ俺からこんな言葉が出るなんてありえない。
ゲーム前提の口説くためのものじゃない、意図せず出てしまった、なんだかわからない気持ちを、どう回収しようかと考えを巡らせていたとき。
「どの口が言ってるんですか」
友里ちゃんが呆れたような笑みで言う。
どうやら、本気にとられていないらしいと知り……それもそうか、と納得する。
俺が今まで繰り返してきた恋愛を友里ちゃんは知っているし、今のだってふざけて言っているくらいにしかとらえていないんだろう。
……そうか。
「だよね」
本気で受け取られたって困るし、これでよかった。
それなのに、うっすらと、暗く重たい感情が喉の奥を覆っていく。
息苦しさのようなおかしな感覚が続くせいで、電車のなかでは友里ちゃんとまともに目を合わせることができなかった。