オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「そうなんですね」
加賀谷さんを想うとどうしても胸が痛いほどに締め付けられてしまうから、そんな顔をしていてもおかしくはない。
だからそれだけ返すと、松浦さんはしばらく私の横顔を見たあとでぼそりと言う。
「俺だったらそんな顔させないのに」
たくさんの車の走行音が聞こえるなかで告げられた言葉に、チラッと松浦さんを見上げた。
「それも口説き文句ですか?」
「さぁ。どうだろう」
「さっきあんな話したばかりなのに、まだゲーム続行するとか救いようがない……」
「これはゲームじゃないかもしれないよ」
読めない笑顔を向ける松浦さんを見てから、ひとつ息を落とす。
「とりあえず。私は、加賀谷さんのせいで泣きそうになってるわけじゃありません。全部、自分の感情が原因です。
たとえば、万が一、私が松浦さんを好きになったとして……やっぱり同じ顔して松浦さんを想うんだと思います」
松浦さんは一瞬目を見開き……そのあとで苦笑いをこぼした。
「たとえ話だって前置きしたうえですら〝万が一〟ってつけられた」
「それくらいありえないことだったので」
加賀谷さんを想うと胸が苦しいのは本当だ。今だって、どうしょうもなく切なくて心が鳴いている。
それでも、こうして松浦さんと軽口を交わしているのが楽しくて、胸の痛みはだんだんと消えていくから不思議だ。
女性は、ひとと話すことがストレス発散に繋がると耳にしたことがあるから、これもその一種なんだろうか。
さっき、〝失恋して傷ついたら〟って話を偉そうに松浦さんにしてしまったけれど。
私の失恋の傷は、松浦さんと話すうちに癒されているということ……?