オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき

「しかし、こういうとき、ひとり暮らしって大変っすよねー。まぁ、加賀谷さんはしっかりしてるから問題ないかもですけど。
俺だったら病気になんてなったら弱気になっちゃってダメですもん。ずっと彼女に手取り足取り看病してもらいたい」

「超うざい」

辛辣な声に顔を上げると、工藤さんがデスクにつくところだった。
挨拶を交わしていると、麻田くんが「女子高生みたいな口調やめてくださいよ」と苦笑いをもらす。

「だってそんなの、いい大人の男がなに言ってんの、としか思えないでしょ。ツラかったら食事くらい面倒見るけど、普通あとは自力でなんとかするものだと思うけど。
彼女は〝お母さん〟じゃないんだから。ただの風邪でしょ? 彼女っていう立場なら、ちょっとお見舞いに行くくらいが妥当」

嫌悪感たっぷりに言い切った工藤さんに論破された麻田くんは、しゅんとした顔をして黙った。

「篠原、帰りに寄ってみればいいじゃない。加賀谷さん、困ってたら可哀想だし」

工藤さんに話を振られハッとする。

「え……」
「だから、お見舞い。部署を代表して行ってみれば」

工藤さんの気遣いだとわかり、曖昧に「はぁ……」とだけ返事をして考える。
〝お見舞いかぁ……〟と、パソコンに向かいながら、ひとり口のなかで呟いた。

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