オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき


もしも風邪を引いたのが私だったら、きっと職場が同じだけの同僚にお見舞いにきてほしいとは思えない。気を遣うし逆に迷惑にさえ思う。

よほど体調が悪くない限り、買い出しだって病院帰りとかに自分で行けるし。

それにきっと、加賀谷さんが第二品管のメンバー内で、一番お見舞いに来てほしくないのは私だろう。

片想いされている相手に、弱っているときになんて会いたくないと考えるのは普通だ。
いくら普段、あの告白をなかったみたいに接してくれていても、実際にはなかったことになんてできないのだから。

お見舞いなんて〝ただの同僚〟の私が申し出るのは図々しい。

悲しいけれど。寂しいけれど。
今、私にできることは、加賀谷さんが早くよくなるようにこっそり願うことと、加賀谷さんが不在中の仕事を滞りなくしっかりこなすだけだ。

そう頭のなかを整理し、気合いを入れ直してマウスを握った。


加賀谷さん欠勤の話題から始まった一日は、なかなかハードだった。というのも、現場で労災が起こってしまったからだ。

なんでも、配管に誤って触れてしまったため、軽いやけどを負ってしまったらしいけれど……正直、〝は?〟というのが感想だった。

その配管が熱いことを知っているのに、手袋もなしでうっかり触ってしまった、なんて完全な自業自得だ。
それを労災として申告してくるひとの気が知れない。


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