オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
もしも危険な場所があったとして、それを誰も認識できずにいるなかで起きてしまった事故なら仕方ないし、改善だって必要だろう。
けれど、もともと危険とされている場所で、本人だってそれをわかっている上で自ら触るというのは、走っている車に自分から飛び込んでいくようなものだ。
社内で起きた事故だから、労災と言えば労災だけど、社員の反応は〝あいつ、この忙しいなかマジでなにやってんの?〟と冷ややかだった。
そんなことがあったため、管理職は急きょ全支部強制出席で開かれることになったネット上での危機管理対策会議で席を外してしまうし、おかげで承認が必要な書類は回らないし、現場はバタバタしているようだしで、大変だった。
それでもなんとか仕事を終え、パソコンをシャットダウンしたとき、電話が鳴った。
時間は十六時四十分。定時まで一時間を切っている。
ややこしい話じゃないといいなぁと思いながら外線だということを確認して、受話器をとった。
「はい。こちら……」
『篠原か? 俺、加賀谷だけど』
電話口から突如聞こえてきた加賀谷さんの声に、一瞬声が詰まってしまう。