オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「そんな挑発には乗りません」とハッキリと告げたあとで、ゆっくりと目を伏せた。
水槽の底にあるライトが青白い光を水槽内に送っていた。
イルカは悠々と青い水のなかを泳ぎ回る。
「もうバレているみたいだから白状しますけど、私の気持ちは松浦さんが想像したとおりです」
それを認めてから続ける。
「正直、私はそこまで綺麗な思考回路はしていませんし、松浦さんの言っている意味もよくわかります。
きっかけなんてどうでもいいとも思う。関係をきちんと作り上げるのはそれからでも充分だって。でも……」
伏せていた視線をゆっくりと上げると、こちらを見ていた松浦さんとすぐに目が合う。
アーモンド形の綺麗な目を、強い意志を持って見上げた。
「加賀谷さんとのことは、ズルして汚したくないんです」
目を逸らさずに告げると、松浦さんが息をのんだのがわかった。
てっきり〝なに真面目な顔してるの〟みたいなことをヘラヘラして言われると思っていたのに。
柄にもなく黙り込んでしまった松浦さんを不思議に思いながらも、もう用はないとさっさと背中を向けた。
「他をあたってください」
残りの数時間を工藤さんとだらだら過ごしたあとバスに戻ると、半分ほどの社員が既に座席についていた。
社で用意したバスは二台。どちらに乗るかは自由だけど、出発時、松浦さん目当ての女性社員がもう一台に乗り込んだため、私たちの選んだバスはやや男性率が高かった。
空席も多い分、二シートをひとりで使うという贅沢ができて、それはとても快適だったはずなのに……。
自分の席に人影を見つけピタッと止まる。