オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「ツラそうですね。熱はまだ高い感じですか?」
「さっき計ったら八度ちょっとだった。日中は七度台まで下がってたんだけどな。まぁ、熱はそこまでじゃないけど、頭痛がひどいかな」
「そうですか……。買ってきた鎮痛剤、解熱作用もあるのでたぶん、飲むと熱も下がると思いますけど……頭痛が一番ツラいんですよね?」
熱は、身体が闘っている証拠だから、そこまでの高熱でなければ無理に下げない方が治りが早いと聞いたことがある。
だから、もしも今そこまで頭痛がひどくないなら、鎮痛剤は飲まないほうがいいかもしれない。
けれど、加賀谷さんは眉間にシワを寄せ、力ない微笑みで「ああ」と答えた。
「篠原に、こんな面倒なことさせるくらいには」
その表情や声から、頭痛がかなりひどいんだと伝わってくるようだった。
いつもはどんなに仕事が忙しくても弱い部分なんて見せずに笑う加賀谷さんが、同僚である私の前だっていうのにここまで弱っているんだからよほどだ。
解熱作用だとか言っている場合じゃないのかもしれない。
いつもは後輩に怖がられてしまう顔立ちも、今は眉も目尻も下がっていて、見るからに可哀想で母性本能みたいなものをくすぐられる。
ビニール袋から鎮痛剤の箱を取り出した加賀谷さんが錠剤を手のひらに開けるから、ローテーブルの上に倒れている水のペットボトルを渡した。
「悪いな」と掠れた声で言った加賀谷さんが薬と水を飲み込む様子を、ただ眺めていて……でも、加賀谷さんの喉がゴクリと動いたのを見た途端、急に今の状況を理解してしまった。