オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
手の熱さに八度を超えているという体温を思い出す。
意を決してゆっくりと振り向くと、ベッドに座ったまま私を見上げる加賀谷さんがいた。
ぶつかった眼差しは、尚も苦しさを浮かべたままだけど、そこにそれまでとは違う感情が混ざって見えた。
頭のなかがパニックのせいで、状況整理ができない。
ただ、見つめてくる瞳から目が反らせずにいると、加賀谷さんの手に力がこもったのがわかった。
握られた手が、熱い。
「今、言うのは違う気がするけど……悪い。うまく感情が制御できない」
そう前置きした加賀谷さんは、真っ直ぐに私を見上げたまま告げる。
「篠原。あの時の告白って、まだ有効?」
なにを聞かれているのかわからなかった。
〝あの時の告白〟は……だって、ふたりでなかったことにしようって……もちろん、決してなかったことにはできないけれど、それでも表面上はなかったことにして今までずっと過ごしてきたはずだ。
私の気持ちなんてないものとして、加賀谷さんも……私も〝普通の同僚〟をきちんとしてきた。
それを……なに? 有効ってどういう意味……?
声を失っている私を見つめる加賀谷さんの瞳は、いつも通り誠実で嘘のない色をしていた。