オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「あの時は、情けないけど色々精一杯で……正直、篠原の気持ちに応えられる精神状態じゃなかったんだ」
麻田くんが言っていた、コース変更の話を思い出す。
「いえ、私が悪いんです。加賀谷さんの状況も考えずにあんな、勢いに任せた告白を……」
そこまで言って言葉に詰まると、加賀谷さんはわずかに表情を緩めた。
「いや。篠原はなにも悪くない。普段から散々助けられてるしな」
助けてくれてるのも、部署を支えてくれているのも加賀谷さんのほうだ、と私が言うより先に加賀谷さんが口を開く。
「仕事ではもちろん篠原を頼りにしてるけど、プライベートだっていうのに、誰かに頼りたくなって頭に浮かんだのは篠原だった。気が弱ってるとき、会いたいと思ったのは篠原だった」
低くかすれた声で、加賀谷さんが続ける。
「同僚だし、同じ部署で働く以上、そこに恋愛感情が混ざらないほうが自分たちにとっても周りにとってもいいって判断して断った。第二品管は今、上手く回ってるしその関係性を変えるのが怖いと思った」
加賀谷さんがそう考えるのは当然だ。
この数年間、仕事のできない部長に代わって第二品管を必死に支えてきたのは加賀谷さんなんだから。
大事に守ってきたものなら、なおさらだ。
「けど……」とひと言だけこぼし言い淀んだ加賀谷さんを、じっと見つめ言葉を待った。