オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき


「友里ちゃん、厳しいね」

全然堪えていない様子にうんざりして、思わず眉が寄っていた。
私がどんなに遠慮なしの本音を言っても、この人には響かないらしい。

「松浦さんの耳、いったいどうなってるんですか……」

耳よりも脳の問題だろうか。
つまらない言葉にいちいち傷つかれるよりも厄介に思えてげんなりする。

ここまで言葉を真に受けてもらえないなんて初めてだった。

「さっきの話ならもうおわったハズですけど」

背もたれに後頭部をつけたまま視線だけチラリと移すと、松浦さんはそんな私を見て目を細める。

優しい……というよりは、意地の悪い、なにかを企んでいそうな微笑みだった。

「言ったはずだけど。他の男に夢中な子を振り向かせるのが好きだって。あんなに一途な部分見せられたら俺だってテンションあがっちゃうよ。
これからどうやって俺の方を向かせようかって考えると今からすげー楽しみ」

「その前につきまとわれたりしたら、普通にセクハラで報告しますけど」

バスのなかに、ひとり、またひとりと社員が増えていく。
次第にざわざわとし出す車内では、「あれ、なんで松浦がいるんだ?」なんて話題もたまに聞こえていた。

その問いかけに松浦さんは「こっちのバスの方が楽しそうなんで」と、明るい声で答えてから私に視線を戻した。

「友里ちゃんの気持ちを俺に向けてから手を出すのが俺のやり方だから、そのへんは安心してくれていいよ。友里ちゃんが俺に揺れてるって思わなければなにもしない。ただ口説くだけ。だからセクハラには該当しない」

「……私が迷惑がってるのにしつこく口説いてきた時点でセクハラですよね? 週明けに朝一でコンプライアンス課にメールします」


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