オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき


肩を抱かれ、やや強引に立ちあがらせられる。
お店の外に出るまで、松浦さんは私の腕を掴んだままだったから、工藤さんや加賀谷さんからの視線を感じたけれど、気にしていられなかった。

怖くてドクドク鳴っていた鼓動なのに、今はそこから不穏なものは消えていて、頭のなかには、ただ〝なんで〟だとか〝どうして〟という疑問が浮かんでいた。

外に出ると、星が見える澄み切った綺麗な夜空と、容赦ない寒さが私たちを迎えた。
コートを着ていないせいで、ふたりしてぶるっと震えてしまい……それに気付いた松浦さんが楽しそうに笑う。

「ごめん。寒かったね」

久しぶりの……九日ぶりの松浦さんに、胸が寒さのせいじゃなく、きゅううっと縮こまる。
未だ笑みを残したまま、白い息を吐き、空を見上げる松浦さんの横顔をじっと見て、唇をかんだ。

嬉しい、なんて感じている自分が嫌で悔しくて、だけど、そういう気持ちを逃がせなくて苦しい。

私だけが振り回されていることが、すごく嫌で……なのに、こうして笑顔を向けてくれたってだけで許してしまいそうで、どっちつかずの感情が胸のなかで暴れる。

そんな私に、松浦さんはいつも通りの微笑みを向けた。

「さっき、大丈夫だった?」
「別に……あんなの、自分でどうにかできましたし」

平然を装っての返事は、まったく可愛げのないものだったっていうのに。
松浦さんは、気にする様子もなく優しく目を細める。

「うん。でも俺が見てられなかったから。友里ちゃんが困ってたら放っておけない」

目を合わせたまま告げられた言葉に、一瞬、激しく動揺してしまい、それを隠すために俯いた。

「なんで……」と零れ落ちた声はとても小さいのに、自分のものだとは思えないほど感情を含んでいた。

なんで……そんな、これでもかってほど柔らかい微笑みで、そんなことを言うんだろう。

一週間、連絡もくれなかったくせに。
ゲームでしかないくせに。

こんな気まぐれは、ズルい。

「友里ちゃん?」と不思議そうに私を呼ぶ松浦さんを、涙の浮かび始めた目で見上げた。

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