オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
ハッキリと言ってから、息をひとつつき、松浦さんを見た。
「セクハラで訴えられるなんて松浦さんだって嫌でしょ。わかったらとっとと自分のバスに戻って……って、なにそんな驚いた顔してるんですか」
呆気にとられたような顔をしている松浦さんに、呆れ笑いをこぼす。
強引に迫られたりだとか接触だけがセクハラじゃない。
髪の長さがどうだとか、メイクののりがどうだとか、そんなことを話題に出しただけでもダメだと騒がれているのだから、松浦さんのそれだって充分そこに該当するハズだ。
美形だからって免れると思ったら大間違いだ。
まさかセクハラなんて言い出されると思っていなかったのか、松浦さんはしばらく言葉を失ってから口を開く。
まだ、驚いている様子だった。
「もしかして、本気で嫌がってる?」
は?と、大声を上げなかったのを褒めてほしいくらいだった。
この人には、イルカの水槽前の私がどう映っていたのか教えて欲しい。
「耳どころか目もどうかしてるんですか」と呆れてしまうと、松浦さんが、ハハッと笑う。
「いや、正直、ここまで本気で拒絶されたことは初めてだったから新鮮で」
「それ、絶対に松浦さんが気付かなかっただけで今までもあったんですよ。
そもそも、彼氏とか好きな人がいる女性しかターゲットにしないんでしょ? 最初は全員、迷惑がるに決まってるじゃないですか」
恋人との仲を、好きな人との間柄をこじらせたい人なんているわけがない。
だから、当然、松浦さんに口説かれた人は全員嫌がるだろうと思い言ったけれど、松浦さんは、まるで私がなにもわかっていない、とでも言いたそうな笑みを浮かべた。