オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「私のこと、避けてたんじゃないんですか?」
単刀直入に聞くと、松浦さんはわずかに驚いたように私を見た後、苦笑いをこぼす。
〝バレてたか〟って聞こえてきそうな顔に、さっき縮こまった胸がズキンと痛む。
その痛みに、私は否定して欲しかったんだと遅れて気づく。
〝避けてなんかないよ〟って、〝仕事が忙しかっただけ〟って言って欲しかったんだって。
前の道を、ひっきりなしにサラリーマンやOLが歩いていく。
ショックで目を逸らすことも忘れている私に、松浦さんは自嘲するような笑みを向けた。
「避けてたっていうか……まぁ、結果的にいうと避けてたってことになるかもしれないけど。少し、自分の気持ちを確認する時間が必要だったから、それで」
首の後ろあたりを触りながら説明されたけれど、よくわからなかった。
松浦さんが私を避けていたのは事実だというところだけ拾って……やっぱり避けられていたのか、と静かに傷ついたあと、ゆっくりと口を開いた。
目の奥が熱い。
「なんで……」
「ん?」
「だって、私のことターゲットにするって言ったのに、だからまずは私と友達になるって言ったくせに、なんで……っ」
涙の浮かぶ目で勢いよく言ってから、我に返った。
ポカンとしている松浦さんにハッとして、すぐに目を逸らす。
私は今、なにを言おうとしてた……?
〝友達になるって言ったくせに、なんで飽きたからって避けるんですか〟なんて、そんな理不尽なことで松浦さんを責めようとしてたの?
つい感情的になってしまったことが恥ずかしくて、「すみません」と早口に謝り店内に戻る。
元の場所に戻るのが嫌で、工藤さんの隣に席を移してもらってひと息ついた頃、松浦さんが店内に戻ってきた。
背中側にある通路を歩く松浦さんが、私のうしろを通り過ぎ、ふたつ奥のテーブルにつく。
飲み会の最中、何度かそちらから視線を感じた気がしたけれど、一度も目を合わせられなかった。