オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
お酒を、まるで水みたいにガバガバ飲んでも、工藤さんは機嫌がよくも悪くもならず、いつも通りだった。
頬が赤くなるわけでも、足元がふらつくわけでも、話に脈略がなくなるわけでもない。本当に通常運転だ。
こうなってくると、もうお酒が強いとかそういう問題じゃないし、いったい、どんな強靭な肝臓を持っているんだろうと途中からそこばかりが気になってしまった。
飲み会も終盤になっていると、眠りこけてしまうひとが出てくるけれど、今回も例外ではなく、見る限り数人が潰れていた。
大人なのに自分の限界もわからず、しかも自力での帰宅ができないほどに飲んでしまうのはいかがなものなんだろうと若干引いてしまうものの、きっと仕事のストレスや疲れもあるんだろうと考えると、ただ単に〝だらしない〟と切り捨てられない。
予算をオーバーしたぶんを徴収したあとお開きとなり、自力で帰れるひとたちがバラバラとお店を出ていく。
まだ二十三時前だし、どの路線も終電までは余裕がある時間だった。
自力で帰れない酔い潰れている人は、タクシーで送っていく……という流れになり、お店側にタクシーを数台要請したところで誰かが言った。
「松浦も潰れてるんですけど、誰かこいつの家知ってますー?」
見れば、ふたつ隣のテーブルに松浦さんが突っ伏していて、その隣の席を陣取っている女性社員が心配そうに松浦さんの顔を覗き込んでいた。
女性が「松浦さん?」と甘く呼び掛けても、松浦さんの目は閉じられたままだ。