オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき


その光景に、少しだけムッとしながらも、松浦さんってお酒弱かったけ?と考える。
私と一緒のときは、飲めない私に合わせてか、一杯二杯くらいでやめていた。あれってもしかして、合わせていたんじゃなくて、松浦さん自身もあまり強くなかったからだったのかな。

結局、〝誰か松浦の住所知ってるか〟の問いかけに、誰も挙手するひとは出てこなくて、場がシンとなる。

「篠原が送っていけばいいじゃない」

工藤さんにこそっと耳打ちされ、眉を寄せる。

「きっと、誰か他の男性社員が送っていきますよ」
「やっぱり知ってるんだ。松浦さんの住所」

バッと振り向くと、口の端を吊り上げている工藤さんがいて、嵌められたことに悔しくなりながら口を尖らせる。

「知ってますけど……私は適任じゃありませんから」

下手に名乗り出て注目を浴びるのも嫌だし……それに、松浦さんは私を避けているらしいし。

胸にチリチリとした痛みが走るのを感じながら成り行きを見守っていると、松浦さんの隣に座っている女性社員が、「私が送っていきますよ」と名乗り出る。

「とりあえずタクシーに乗せたら起きるかもしれないし。もしもタクシーのなかでも松浦さんが起きなかったら、仕方ないし私の部屋に……」

なんて、大胆なことを提案する女性社員を止めたのは加賀谷さんだった。

「いや。女性の部屋にあげるのはまずいだろ。松浦は酔っているんだし、なにかあってからじゃ遅い。それなら俺の部屋に泊める」

その通りだ。プライベートの飲み会のあとなんて誰がお持ち帰りしようと自由だろうけれど、これは会社の忘年会だ。
なにか問題があったらまずい。

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