オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき


だから私も、本当は松浦さんの部屋なら知っているけれど、ここは男性社員が送って行ったほうが自然だと思っていたし、加賀谷さんが連れ帰ってくれるなら、それはそれで心配いらないしと黙っていたのだけど……。

「あ、松浦の財布でも漁ってみます? 免許書とか保険証があれば、住所がそこに……」
「――あの」

松浦さんに近づいた男性社員が、なんの躊躇もなく松浦さんの鞄を開けようと手をかけるから、つい口が出た。

松浦さんは、結構繊細だから、よく知りもしないひとに私物を漁られるのも触られるのも嫌だと思ったからだ。

住所だって、みんなが知らないのは、松浦さんがあえて教えてこなかったからかもしれないし、ここで無理やり広められてしまうのは可哀想だし、見過ごせない。

一気に集まった視線に居心地の悪さを感じながらも、口を開く。

「私、松浦さんの部屋知ってます。住所はわからないですが、部屋に行ったことはあるので、タクシーの運転手さんに説明はできるかと。私と方向も一緒だし。だから……私が送りますよ」

こんなことを自白したら、きっと社内で噂されるに違いないとはわかっていた。
けれど、工藤さんから聞いた話だと、どうせもう噂は立てられているらしいし、そこに色々足されても今更だ。

女性社員の、気に入らなそうに歪んだ顔と、男性社員のぽかんとした顔を見てから加賀谷さんに視線を移す。

真っ直ぐな瞳を見つめ返していると、加賀谷さんが「任せて大丈夫なのか?」と念を押すように聞くからうなずいた。



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