オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「二回連続、社内旅行が水族館と遊園地ってありえない」
うんざりした顔で言う工藤さんのうしろを、ジェットコースターが凄まじいスピードで通り過ぎる。
相変わらずの走行音に、相変わらずの混雑具合。前回と違うことと言えば、気温くらいだろうか。
前回は十一月で寒かったけれど、今は七月。外にいるだけで溶けそうな気温だった。
「つーか、時季がおかしくないっすか。冬と夏って、基本こういう場所のレジャーには向かない季節ですよね」
そして、麻田くんが出席しているのも、前回とは違う点だった。
今までは〝彼女と過ごしたいんで!〟と元気よく断っていた麻田くんは、この春、彼女と破局してしまった。
二月に彼女の転勤が決まり、電車で三時間ほどの遠距離恋愛となった。そして、距離に負けず関係を続けてきた四月。音を上げたのは彼女の方だった。
〝ツラい〟と泣く彼女を前にして、今、彼女を苦しめているのは自分の存在だと気づいたらしい麻田くんは、その日に別れを告げたという話だ。
『俺に縛られてるから、仕事もプライベートも全力投球できないんだろうなってわかっちゃったんすよね。やっぱり、距離って偉大だって話っす』
へらっとした顔で笑った麻田くんの目は腫れていて、その日の仕事終わり、工藤さんと一緒に無言で麻田くんを拉致してカラオケに連れ込んだのが懐かしい。
『思う存分泣いていいよ』と言っても、『男が涙なんて』と、なんとも古風なことを主張する麻田くんを前に、立ちあがったのは工藤さんだった。
『泣かせてあげる』とマイクを握り、選んだのは誰もが知る切ない恋愛バラード。別れた彼女を想う歌詞は麻田くんにぴったりで、これはもう泣くな……と、思ったのだけれど。
工藤さんのあまりの音痴具合に、涙は涙でも、笑い涙がこぼれていた。