オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
そう。これは松浦さんの誕生日祝いだ。
付き合い始めてからよくよく聞いてみたら、松浦さんは小さな頃から誕生日をきちんと祝われたこともなければ、クリスマスだとかお正月という子どもが喜びそうな行事は全部スルーできたらしい。
松浦さんはそれを、本当になんでもないことみたいに話していて……私はなんて返せばいいのかわからなかった。
聞かされた内容が衝撃的すぎて、悲しくなってしまってダメだった。
だから、というわけでもないのだけど。今までのイベントがそんなだったなら、これからは私が……と柄にもなく思ってしまったのだ。
私だって人並みに、恋人を大事にしたいだとか、いつだって笑っていてほしいという思いはある。
だから当然、松浦さんにだって楽しい思いをして欲しいし、誕生日だってきちんと祝いたい。
ふたりじゃ食べきれないくらいのケーキを買ったりして、クラッカーだって用意してみてもいいかもしれない。
そんなふうに考えていたのに。プレゼントの希望がないかと尋ねてみたら、返ってきたのがこのお願いだった。
『じゃあ、社員旅行に一緒に行こう』
正直、ものすごく嫌だ。
松浦さんとの関係は、秘密にしているわけではないけれど公言しているわけでもない。
誰も直接聞いてきたりしないから、知っているのは工藤さんと麻田くん……そして加賀谷さんくらいだ。
松浦さんだってああ見えて結構慎重だから、イタズラに言いふらしたりはしていないだろうし、知っているひとは本当に少数に限られる。
たぶん、その間に告白してきた社内の女の子にだって〝付き合っているひとがいる〟くらいに留めて私の名前は出していないだろう。
直接聞いたわけではないけれど、そうじゃなければ、こんなに私の社内生活が平和なはずがないから確実だ。
おかげさまで、付き合う前となんら変わらない環境で仕事することができている。