オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「さて。会議に行かないとだなー」と、ふわぁあ……と大きな欠伸をしながら離席した部長が、フロアを出ていく。
その様子を見届けてから、隣の席の麻田くんが「部長、今日も炸裂しちゃってますね」といつも通りの軽い口調で話しかけてくる。
一年後輩の麻田くんは、半年ほど前に第二品管に異動してきた男の子だ。
茶色く染め耳にかかる程度の長さの髪は、たまに部長から注意を受けているけれど「明日直してきまーす」と言うだけで一向に黒くも短くもならない。
一応、上司からの直々の注意なのに……とは思うものの、部長のあの仕事ぶりでは、素直に従わないのも無理はないように思えた。
会議での居眠りとミスしかしていない部長をナメるなという方が難しい。
現に、来月のスケジュール提出が明後日に迫っているっていうのに、部長から、スケジュールを提出するために必要とされるフォーマットが送られてこない。
総務部からはおそらくとっくに部長に送信されているはずのそれは、部長のメールボックスで眠ったままなんだろう。
最初の数ヶ月は、『提出期限迫ってますけど大丈夫ですか』なんてことを忠告していたけれど、さすがに毎月ってなるともう声をかけるメンバーもいなくなった。
提出が遅れて注意されるのは部長だ。
仕事の進捗が遅れてしまうだとか、事情がない限りは部長は放っておこうというのがいつの間にか部署内での暗黙の了解となっていた。