オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
「多田部長、仕事できないからどこの部署も欲しがらなくてたらい回しにされてるって噂、事実だったんすねー。
つーかその前に、なんで部長って役職まで上がれたかが疑問なんですけど。書類相手の仕事ができないならできないで、現場に回すとかできないんすかね」
茶髪にシルバーフレームの眼鏡姿の麻田くんの口ぶりは、さすがに言いすぎだなと思いながらも注意する気にはならなくて「次の異動で部長職からおろされるって噂だけどね」と返す。
この部署に、多田部長に不満を抱えていない社員はいないから、誰に聞かれたところで問題はない。
「へぇ。さすがに人事も動いたんすね」
「半年に一度の本部長との面接で、第二品管の全員が多田部長のマネージメントに対して不満を伝えたらしいから。それに、提出書類期限を基本的に守らないから、他部署からも意見があったとかって工藤さんが言ってた」
「そうなんすか?」と麻田くんが向かいの席に視線を移すと、それまでキーボードを叩いていた工藤さんが手を止めて視線を上げる。
「そう。少なくとも庶務と総務からは結構前からどうにかできないかって話が上がってたって同期が言ってた」
「へぇ。そしたら次、誰が部長になるんだろ。あんまり厳しくても嫌だなー」
「その茶髪も今のうちだけかもね」と冷たく言った工藤さんが視線をパソコンの画面に戻したのを見て、私もマウスを動かす。
隣の麻田くんが「そこ、本当に死活問題なんすよ。俺、この髪型じゃないとモチベーション保てないっすもん」と嘆いている。
それを聞き流しながら、土日のうちに溜まっていたメールをひとつひとつ確認していると、加賀谷さんが浮かない表情でこちらに歩いてくるのに気付いた。
手にはなにやら書類が持たれている。